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松江地方裁判所 平成4年(ワ)99号 判決 1995年11月29日

島根県松江市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

妻波俊一郎

岡崎由美子

東京都中央区<以下省略>

被告

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

千葉県船橋市<以下省略>

被告

Y1

右両名訴訟代理人弁護士

石倉孝夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは原告に対し、連帯して金一〇四九万二九三七円及び内金九五四万二九三七円に対する平成三年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告野村證券株式会社(以下「被告会社」という。)の従業員である被告Y1(以下「被告Y1」という。)により、違法な勧誘を受けてワラントを購入させられたうえ、違法な仕切拒否をされるなどした結果、右購入代金及び弁護士費用相当額の損害を被ったとして、被告Y1に対しては民法七〇九条、被告会社に対しては同法七一五条に基づき右損害の賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実

1  当事者

(一) 原告は、松江市内で古美術商を営む昭和八年○月○日生まれの自営業者である。

(二) 被告会社は有価証券の売買等の証券業を営む株式会社であり、被告Y1はその従業員として、平成元年六月から被告会社松江支店に勤務し、以来本件当時まで原告の証券取引の担当をしていた者である。

2  新株引受権付社債及びワラントについて

新株引受権付社債(以下「ワラント債」という。)は、社債権者に新株引受権が付与された社債で、権利者は、所定の期間(権利行使期間)内に、所定の価格(権利行使価格)で所定の数量の新株の発行を請求することができるとされ、このワラント債には、新株引受権を社債とは分離して譲渡することはできない非分離型のものと、社債と分離して譲渡することができる分離型のものとがある。分離型のワラント債においては、分離された新株引受権は、新株引受権証券という有価証券に表章され、社債権を表章する社債券とは別個に流通することになる(商法三四一条の一三、一四)。そして、ワラントとは、本来、分離型・非分離型を問わず社債権者に付与された新株引受権のことであるが、分離型の場合の新株引受権を表章する新株引受権証券のことを指すことがある(以下では、分離型の場合の新株引受権を表章し、それ自体が取引の対象となる新株引受権証券を「ワラント」という。)。

3  本件ワラント取引

平成三年五月末ころ、原告は、被告Y1の勧誘により、被告会社(松江支店取扱)から、次のとおりワラント(いずれも外貨〔アメリカ・ドル〕建。以下、まとめて「本件ワラント」という。)を購入した。

(一) 銘柄 清水建設ワラント

買付数 五〇ワラント

代金額 金二七七万四〇〇〇円

権利行使期限 平成五年七月二日

(二) 銘柄 エーザイワラント

買付数 一〇〇ワラント

代金額 金六七六万八九三七円

権利行使期限 平成五年二月一七日

4  本件ワラントの価値はその後原告の購入価額を上回ることなく、本件ワラントはいずれも権利行使されないまま右各権利行使期限を経過した。

二  争点

1  被告らの責任の存否

(原告の主張)

(一) 違法な勧誘

被告Y1は、原告に対して本件ワラントの購入を勧誘するに際し、次のような違法な行為を行なった。

(1) 適合性の原則違反

① 証券会社の投資勧誘は投資者の意向と実情に反してはならないところ(適合性の原則)、原告は、本件ワラント取引以前に訴外和光証券株式会社(以下、単に「和光証券」という。)と被告会社の二社を通じて株式・投資信託・転換社債等の取引をしていたが、その殆どの場合において自ら申し込みをしたことはなく、証券会社の営業社員のいうまま、その言を信頼して取引を開始し終了していたのであり、自ら進んで証券の知識を得ようとして新聞や雑誌を買って読んだり勉強したりしたことはなく、自ら相場の傾向についての一般的な相場観を持ったりしたことはなかった(時々、証券会社からパンフレット等を受け取っていたが、殆ど見なかったし、見ても到底理解するに至らなかった)のであり、このような知識・経験しか有していなかった原告には、リスクの大きいワラント取引についての適合性はなく、被告Y1が、このような原告に対し、本件ワラント取引の勧誘を行なったことは適合性の原則に違反する。

② 原告は本件ワラント取引以前に和光証券を通じて株式の信用取引をしたことがあるが、株式の信用取引とワラント取引とはその取引内容において異なっており、信用取引をしていたからといって直ちに原告にワラント取引の適格があったとはいえないし、原告は信用取引についてさえも十分な知識・経験を有しておらず、和光証券の従業員Bの言うまま、平成三年四月一一日に信用取引を始めて、同日及び同月一五日にそれぞれインテック株を買い、同年五月二一日にサンテレフォン株を買ってその日のうちに売ったのみであり、取引期間・回数・内容において、本件ワラント取引の話があった平成三年五月下旬の段階で信用取引に習熟する程のものではなかった。

(2) 説明義務違反

証券会社は、本件の如くハイリスクな商品であるワラントの取引を勧誘するに際しては、購入予定者である投資者に対し、その商品特性を正確かつ十分に説明する義務があり、かつ、この説明は、単に説明すれば足りるというのではなく、平易な言葉と方法で説明し、購入予定者において、それを十分理解しなければならないところ、被告Y1は、原告に対し、本件ワラントについて一部説明はしたものの、原告が忙しいときに電話を掛けてきて早口で説明したものであり、原告においてその説明を十分理解できなかったうえ、権利行使期間、資金回収方法及びこれに関するリスク(ワラントは一般の上場株式などと異なり、取引所外での証券会社との相対の仕切売買でしか資金回収ができず、消費者において、ワラントが紙屑と化してしまう前に少しでも投下資本を回収したいと考えても、証券会社にメリットがなければそのチャンスがない。)、ワラント発行会社の経営状況等の重要事項は何ら説明しておらず、また、損失が生じるか否かについても、一応損失が生じる可能性については言及したものの、損が生じる前に売ってしまうのでそのようなことはないと述べてリスクを否定し、更に、後述のように「責任を持つ。」等と不実の表現をした。

また、被告会社ら、社団法人日本証券業協会(以下「証券業協会」という。)に加入している証券会社は、ワラント取引前に、ワラントについての説明書を顧客に交付し、かつ、当該取引の概要及び当該取引に伴う危険に関する事項について、十分説明すると共に、顧客の判断と責任において当該取引を行なう旨の確認を得るために確認書を徴求することになっているところ(証券業協会が制定している公正慣習規則第九号「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」六条三号)、被告Y1は原告に対し本件ワラント取引前に説明書を交付せず、かつ、確認書も、被告会社の他の従業員が、原告の留守中に集金に来た際に、内容の説明もしないまま、原告の妻Cから徴求したに過ぎず、いずれの義務も怠っていた。

(3) 断定的判断の提供

被告Y1は、本件ワラント購入の勧誘に際し、原告に対して「有利だから買いなさい。買わなければ損。買いさえすれば、儲かる。絶対、儲かります。」と述べて本件ワラントが必ず値上がりする旨の断定的判断を提供した。これは、証券取引法五〇条一項一号に違反する。

(4) 損失補償の約束

被告Y1は、本件ワラント購入の勧誘に際し、原告に対して「買いさえすれば儲かる。」等と述べたうえ、万一の時は「責任をとる。」と述べて、ワラント取引による損失を負担することを約して勧誘を行なった。これは、証券取引法五〇条の三第一項一号に違反する。

(5) 強引で執拗な勧誘

証券取引は、本来、投資者の自由な意思と判断でなされるべきであり、強引な勧誘と執拗な勧誘はこれを阻害し、取引の公正を損なうので違法性を帯びるというべきである。

被告Y1は、原告がワラント購入を明確に断っていたにもかかわらず、連日数回にわたって原告に電話し、強引かつ執拗に勧誘した。

(二) 違法な仕切拒否

ワラント取引は顧客と証券会社との相対取引であって市場性がないうえ、本券が外国保管であり、顧客には取寄せが不可能に近いものであって、他社への売却も困難であり、投下資本の回収は買付けた証券会社への売却の方法しかない。

そのような事実を前提にするとき、仮に証券会社に顧客の買戻し請求に応じる義務がないとすれば、証券会社が常に顧客の損害において自己の利益を図ることを許すことになり、証券会社が「顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」(証券取引法四九条の二)との大原則から大きく逸脱することになる。

従って、右原則からしても、証券会社にはワラントの買戻し義務があるというべきところ、原告は被告Y1に対し、本件ワラント購入の翌日には本件ワラントの売却方を申し入れ、その後も、再三にわたって仕切を求めたが、被告Y1は「大丈夫上がります。」との虚偽の事実を述べてこれに応じなかったのであるから、仕切拒否として違法である。

(三) 誠実公正に業務を行なうべき注意義務違反

証券会社は、その業務の遂行にあたっては、何よりも消費者の最大の利益を図るために誠実・公正に行動すべきことは証券取引法の全体を貫く重要な理念である(証券取引法四九条の二)。そして、証券取引においては、一般消費者は事業者に比較して商品・サービスの知識・経験・情報に乏しいことから事業者に高度な注意義務が課されている。

清水建設ワラント及びエーザイワラントの価格は、いずれも若干の上下をしながらも本件取引当時低落傾向にあって、共に平成三年八月一九日を底値とし、原告が購入した後も引続き低下していた。当時、株価が長期低落傾向にあり、かつ、証券不祥事の発生で当分の間株価が持ち直す見込みがあったとはいえなかったことからすれば、原告が買戻しを要求した時期に被告Y1がいうように「大丈夫上がるから」といった楽観的な相場状況ではなかったことは明らかであり、被告Y1としては原告に損害を与えないように高度の注意義務を尽くしたとは到底いえない。

また、右底値を記録した後も、清水建設ワラントの場合、同年一〇月下旬ころにはわずかであるがBIDで一・五ポイント、エーザイワラントの場合も同月半ばころには七ポイントまで持ち直した時期があるところ、仮にその時点で被告会社が買戻したとすれば、原告の回収できた金員は清水建設ワラントで五一万七五〇〇円、エーザイワラントで四八三万円となった(但し、実勢為替レートを一ドル一三八円として試算)。

しかるに、被告Y1は、このような株式及びワラント価格についての若干の持ち直しの状況を知りながら、原告にはその読み方も理解できないような資料を送付するだけで、注意を喚起しようとすらせず、原告の被害が拡大するのを放置したものであり、これらは証券会社の誠実・公正に業務を行なうべき注意義務に違反する。

(被告らの主張)

(一) 勧誘の違法性について

(1) 適合性の原則違反について

原告の主張(一)(1)の事実中、原告が証券に関する知識・経験が未熟であったこと、専ら被告Y1の指示のままに被告会社と取引をしていたことは否認し、被告Y1が原告にワラント購入を勧誘したことが適合性の原則に違反するとの主張は争う。

原告は、本件ワラント取引当時満五七歳で、昭和五〇年から古美術商を営んでおり、被告会社においては十年来、和光証券においても十数年来、自己もしくはその家族名義で証券取引を行ない、しかも、本件ワラント取引以前の平成三年四月一一日から和光証券を通じて株式の信用取引も行なっており、また、取引に当たっては最終的に原告自らの判断と責任において取引をし、その過程で情報を積極的に求め、銘柄や値段の選択をするなど、投資経験は豊かであった。

また、原告が本件ワラント取引当時保有し、被告会社に預けていた証券は、原告名義のものだけで約二四〇〇万円、原告の家族名義のものを合わせると三〇〇〇万円以上であった。

原告の右のような属性(性別・年齢・職業等)、投資経験、原告からの預り資金等の諸事情に照らして、原告にワラント購入を勧誘したことが適合性の原則に反するとはいえない。

(2) 説明義務違反について

原告の主張(一)(2)の、被告Y1が原告にワラントの重要事項の説明をしなかったとの事実は否認し、説明書を予め交付せず電話で勧誘を行なったこと自体を違法・不当であるとの原告の主張は争う。

被告Y1は原告に対し、ワラント取引説明書に基づきその意義、仕組、リスク等について十分な説明をした。

即ち、被告Y1は原告に対し、平成三年五月二〇日ころ、電話で、ワラントについて、その説明書を見ながら、「一定の価格で一定の期限内に一定の数量の新株を買い取ることができる権利が付いた証券であること」、「普通ワラントのままの状態で売買するが、権利行使期間が終了したときには価値がなくなること」、「ワラントの価格は理論的には株価に連動するが、その上げ下げは株式に比べて大きいこと」、「最大のリスクは価値がなくなりゼロになること」、「外貨建ワラントは為替リスクが現実にあること」、「店頭取引であるため証券会社によっては値段が違う場合があること」など、その意義、商品性、取引の仕組について説明し、ワラントの理論価格(パリティ)については、原告が転換社債を保有していたことがあったので、転換社債のパリティの計算式を例にとり転換社債との比較で説明したうえで、一銘柄を挙げてその条件等(権利行使価格、権利行使期間、値段等)を説明し、購入を勧めた。

また、被告Y1は、ワラント取引が店頭取引であることも説明している。原告は本件ワラント取引以前に、被告会社との最初の取引であるジーエムエーシーオーバーシーズゼロクーポン債を初めとして、イノテック株、アスクプランニングセンター株(C名義)を店頭取引で買付けているだけでなく、被告会社に店頭取引に関する確認書も差入れており、店頭取引の仕組については知悉していた。

その後、何度か電話でワラントについて右のような説明をし、同月二九日に電話で清水建設ワラントの購入を勧めた際、原告からワラントの説明をまた求められ、清水建設ワラントの条件等(権利行使価格、権利行使期限、値段等)の説明を交えながらワラントの意義、商品性、リスク等について説明し、清水建設株の相場の中での見通しも伝え、原告は考えてみるとのことだったので、同日再度原告に電話をして清水建設ワラント購入をどうするか尋ねたところ、原告から再度ワラントについての説明を求められたので、ワラントについての基本的な説明と清水建設ワラントの条件等の説明をし、その説明後、原告は清水建設ワラントの購入を申し込んだのである。

(3) 断定的判断の提供、損失補償約束、強引で執拗な勧誘について

原告の主張(一)(3)ないし(5)の事実はいずれも否認する。

(二) 違法な仕切拒否について

(1) 原告の主張(二)の事実中、原告から、本件ワラント売却の相談を受けたこと、ワラント本券が外国保管であることは認めるが、その余は否認し、被告会社の買戻し義務の主張は争う。

契約上、顧客から買い注文を受けた証券会社がこれを買戻す義務は定められていないこと、他社への売却も可能であること、実際上も顧客へのサービスとして買戻しに応じているに過ぎないことなどから買い注文を受けた当該証券会社が買戻す法的義務はない。

(2) 平成元年二月からワラントの業者間取引が開始されているところ、本件ワラント取引の行なわれる前である平成二年七月一八日には日本証券業協会理事会決議「外国新株引受権証券の売買、気配の発表等について」が定められ、以後、外貨建ワラントの業者間取引についてはこの理事会決議に従って行なわれることになった。同決議によれば、外貨建ワラント一銘柄について二社以上の証券会社がマーケットメイクを行なうこととされており(同決議第一1(3)①)、マーケットメイクを行なう証券会社は日本相互証券株式会社に対して継続的に売り注文及び買い注文を発し、同注文に基づき、少なくとも五〇ワラントの売買に応じるものとされている(同決議第一1(4)①、③)。

証券会社は、顧客からのワラントの売り注文があった場合において、一定数量のワラントについては自己が提示している気配値により顧客からの注文に応じているのであり、マーケットメイクが行なわれている限りにおいては原告が主張するように投資妙味が低下している状態になったからといって顧客の売り注文に応じないということはない。

(3) また、ワラント本券はヨーロッパの保管銀行にて保管されているが、ワラント取引が行なわれた場合の決済はユーロ・クリアという保管振替機構における口座振替の方法により行なわれるものであって、同機構に口座を有する証券会社(日本国内では四〇社以上あり、その中には和光証券も含まれる。)間であれば顧客の申出により口座移管が容易に行なわれるものである。顧客は口座移管を希望する証券会社にて一定の手続きを行なうことにより、容易にワラントの口座移管を行なったうえで売却を行なうことができるのであって、他社への売却が困難であるとの原告の主張は何ら根拠を有しない。

(4) 原告から売却についての相談があったが、原告は被告Y1と相談した結果、自己の判断により売却注文を出さなかったものであり、原告が主張するような仕切拒否が行なわれた事実はない。

(三) 誠実公正に業務を行なうべき注意義務違反について

被告Y1は原告に対して本券ワラント買付け後も逐次全体の状況や個別銘柄の状況等も含めて本券ワラントの値段について十二分に連絡しており、特に平成三年八月末ころからは、原告からの依頼に基づきワラント価格表を送付していたものであって、原告が主張するように原告に読み方も理解できないような資料を送付するだけで注意を喚起しようとすらしなかったという事実はない。原告は被告Y1から十分な情報提供を受けながらも自己の判断で売却をしなかったものであり、本件ワラント買付けによる損失は、本件ワラント買付け後本件ワラントが値下がりしたことについて徒らに被告Y1の責任を追及するばかりで売却するとの判断を下さなかった原告自身が負担すべきものである。

2  損害

(原告の主張)

合計金一〇四九万二九三七円

(一) 本件ワラント購入代金相当額 金九五四万二九三七円

(二) 弁護士費用 金九五万円

第三判断

一  前記事実に証拠(甲一ないし六、乙一ないし三、四ないし六の各1及び2、七ないし二九、証人C、原告本人〔第一、二回〕、被告Y1本人及び弁論の全趣旨)を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告の従前の証券取引の状況等

(一) 原告は、訪問販売の古美術商を始めた昭和五〇年ころから被告会社及び和光証券を通じて投資信託等の取引をしており、同五七年二月ころには、被告会社に外国証券取引口座を開設して外国債券(ジーエムエーシーオーバーシーズゼロクーポン債)を購入し、同六〇年には、それを売って六〇〇万円余の差益を得た他、株取引も開始して被告会社に証券の保護預り口座を開設し、以後本件ワラント取引に至るまで、被告会社や和光証券を通じて、自己名義だけでなく妻及び娘の名義も使って、株式、転換社債、外国債等の証券取引を行ない、その中には店頭・相対取引もあった。

本件ワラント取引前の時点で、被告会社における原告名義の保護預り証券は合計約二四〇〇万円相当、家族名義のものを合わせると、合計約三〇〇〇万円相当であった。

(二) 被告Y1は、原告の担当になった当初は、原告から投資意欲がない旨いわれていたので時々電話連絡をする程度だったが、原告の被告会社との証券取引が平成二年六月から再開されたのに伴い、平成二年末ころから本件ワラント取引のころにかけては、二、三日に一回位の割合で原告方に架電して相場の状況を伝えたりする他、ひと月に一、二回原告方に赴いて直接話をしたりしていた。原告は仕事柄日中は留守勝ちなので、原告方への電話は、原告が在宅している午前八時過ぎ又は午後七時ころにしていた。

(三) また、原告は、平成三年四月二日朝、和光証券の従業員Bから電話で株式の信用取引を勧誘され(なお、原告のこれまでの株式取引は現物取引であった。)、被告Y1に相談したところ、信用取引はしない方がよい旨助言されたが、結局、当日直ちに和光証券との間で株式の信用取引をすることを決定し、本件ワラント取引をした同年五月末までの間に、同年四月一一日と一五日にインテック株合計八〇〇〇株、同年五月二一日にサンテレフォン株合計五〇〇〇株を買付け(買付け金額合計三一三四万円)、その後も和光証券との信用取引を同年九月二〇日まで行なったが、この取引の結果、六〇〇万円近くの差損が出た。

2  ワラントの特質

(一) ワラント債の発行会社は、その発行前に投資者が新株を引き受けるために払込むべき価額を定めることになるから、その銘柄の株価が上昇していて新株引受権を行使することにより割安に新株を取得できる場合であれば、投資者は権利行使して低コストで新株取得の機会を得ることができるが、株価が下落していて新株引受権を行使して新株を取得するコストが割高になるようであれば、投資者は新株引受権の行使を放棄せざるを得ないこともある。このように、ワラントの価格は、理論的には株価から新株引受価額(権利行使価格)を差し引いた額によって決定されるが(理論価格としてのパリティ)、現実の市場では、将来における株価の上昇を期待して、右の額にプレミアム(将来における株価上昇の期待値)が付加された価格で取引される。

したがって、ワラントの価格は、当該銘柄の市場株価の上下に伴って上下する(外貨建ワラントの場合は、更に為替変動の影響が加わる。)が、当該株価が権利行使価格を下回っても、権利行使期間が残存している間は、将来当該株価が上昇するとの見通しがある限りにおいてはプレミアムが付いているため無価値になることはなく、権利行使期間が満了した時点で当該株価が権利行使価格を下回っているとき、又は、権利行使期間内においても当該株価が再び権利行使価格を上回ることがないことが確実となったときには、当該ワラントの市場価格も無価値になる。

また、当該銘柄の株価の上下に伴うワラントの価格変動は、株式の数倍の幅で上下する傾向があることから(所謂ギヤリング効果)、ワラント取引は少額の投資により株式売買の場合と同様の投資効果を挙げることも可能であるが、その反面、値下がりも激しく、投資金額の全額を失うこともあり、権利行使期間を経過すると当該ワラントは無価値になってしまう点で、同額の資金で株式の現物取引を行なう場合と比較すれば、ハイリスク・ハイリターンな特質を有する金融商品であるといえるが、他方、投資者の損失額は投資額に限定され、株式の信用取引や先物取引のように預託した資金以上の損失を被ることはない。

(二) 外貨建ワラントは、証券会社と顧客との相対取引で行なわれ、証券会社により価格に多少差が出ることがある。

ワラント本券は海外の決済機関に保管されているが、所定の移管手続を行なうことにより、買付けた証券会社から他の証券会社へ保管の委託先を変えることができる。

3  本件ワラント取引の経緯

(一) 被告Y1は、原告の投資経験や預り資産等から原告がワラント取引の適格性を有すると判断し、平成三年五月二〇日ころ(以下、特に断らないものはいずれも平成三年)、原告方に架電して、ワラント取引説明書(被告会社作成の「ワラント取引説明書」〔乙一八〕及び証券業協会ら作成の「国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書」〔乙七〕と各題するパンフレット)を見ながら口頭で、ワラントが一定の期間、一定の価格で、一定の数量の新株を引き受ける権利を有する証券であること、外貨建ワラントには為替リスクがあること、株に比べて非常に値段の動きが大きくなること、権利行使期限を経過すると価値がゼロになること等の説明をしてワラント購入を勧誘した。しかし、原告は「分かったような分からんような。」と返答するにとどまった。

(二) その後、同月二八日までの間に、被告Y1は、原告保有の株式の状況等の報告のために、二日に一度程度の割合で原告方に架電し、その際、前記同様にワラントの説明をした。

(三) 同月二九日午前八時ころ、被告Y1は、前日の夜、原告に購入を勧めて指値で注文を受けていた日本セラミック株の購入が、原告指値では成立しなかったことから指値変更の許可を得るため原告方へ架電し、原告から指値変更の許可を得ると共に、清水建設ワラントの購入を勧誘したところ、原告から、再度ワラントについての説明を求められたので、ワラントについて前記同様の説明をし、清水建設ワラントについて権利行使価格や権利行使期間、清水建設株の見通し等を具体的に説明した。これに対して原告は考えてみると答えた。

(四) 同日午前九時三〇分ころ、被告Y1は、日本セラミック株がなお原告指値では購入できそうになかったため、原告の出先へ架電し指値変更の許可を得た。その際、清水建設ワラント購入の勧誘をしたが、注文はとれなかった。

(五) 同日午前一〇時過ぎころ、被告Y1は、日本セラミック株がまだ原告指値では購入できそうになかったため、再度原告の出先へ架電し、指値を変更し成行きで買付ける旨の注文を受けた。その際、被告Y1がまた清水建設ワラント購入の勧誘をし、原告からの求めに応じて前記同様のワラントの説明を繰り返した他、ワラントの価値がゼロになる危険があることを説明する趣旨で、燃えてしまったらなくなってしまうから「藁」みたいなものだという人もいる旨述べたところ、原告は清水建設ワラント購入を承諾した。そして、被告Y1が原告に対し、日本セラミック株が購入できた場合の不足金を含めて原告が用意できる金額を尋ねたところ、原告が三五〇万円位と答えたため、それに見合う分として清水建設ワラントを五〇ワラント購入し、代金は六月三日に支払うことになった。

(六) 同月三〇日、原告は、前日被告Y1が、ワラントは藁のようなものと言ったことが気になり、同被告に架電してその意味を改めて尋ねて説明を受けると共に、前日購入した清水建設ワラントの価格が〇・五ポイント下がっていることを聞いた。そこで、原告は、右ワラントを売却すべきか被告Y1に相談したが、同被告の相場観等を聞いて、結局、売却はせずに様子を見ることにした。

(七) 同月三一日、原告が購入した日本セラミック株が値上がりしたので、被告Y1は、原告に架電して同株の売却を勧め、原告から売り注文を受け、その手続を執った。その後再度原告に架電して、エーザイワラント購入を勧誘したところ、原告から同ワラント一〇〇ワラントの買い注文を受けた。

(八) 六月三日、原告方に赴いた被告会社庶務社員Dに対し、Cが、清水建設ワラント購入代金及び日本セラミック株購入代金不足分として金三五〇万円を交付すると共に、Dが持参した「国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書」と題するワラント取引説明書を受領し、同書の末尾に添付されていた被告会社宛の「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」と題するワラント取引確認書用紙に原告の住所・氏名を記載し、原告の届印を押印してDに交付した。

同月五日、エーザイワラント購入代金につき、原告が保有していた日本セラミック株を売却した代金をもって充当決済がなされた。

(九) その後、六月半ばころから八月にかけて株式相場全体が低調でワラントも価格が下落し、八月の時点で本件ワラント両方合わせて概算で一〇〇万円前後まで下がったが、九月ころから回復基調に入り、一〇月ころには、概算で五、六〇〇万円位まで回復したが、その後はまた下降していった。

原告は、六月中旬ころ、被告会社松江支店へ二回赴いて相場の状況を尋ね、本件ワラントの売却について被告Y1に相談したが、同被告の相場観等を聞き、また、そのとき、ワラントの価格が下がっていたので、もう少し様子をみることとした。

七月ころから、原告は被告Y1に対し、本件ワラントが値下がりしたことに基づく損失について責任を追及するようになった。

被告Y1は、八月ころから、原告に対して、価格の戻りを見ながら本件ワラントを売っていきましょうと話し、ワラント価格表を送付すると共に電話をするなどしてワラントの値段を毎日のように原告に連絡し、本件ワラント価格が持ち直した一〇月ころには、売るかどうか原告の意向を尋ねたが、結局、原告は売却の指示はしなかった。

以上のとおり認められる。

なお、原告は本人尋問(第一回)において、ワラントの権利行使期限の存在については説明を受けなかった旨供述をするが、他方で、被告Y1からワラントについて種々説明を受けたが、どういう説明を受けたか記憶にないとも供述する等、供述内容は曖昧であるうえ、ワラントの価格は株と連動して上下すること、為替に影響されること、ワラントは価値がゼロになる危険があることのほか、ワラントは藁のようなものだと言って笑った客がいたことを被告Y1から聞いたことは認めており、このような比喩まで使ってワラントの危険性を説明している被告Y1が殊更ワラントの権利行使期限の存在について言及しないとは考えにくいことに照らすと、原告本人の前記供述は採用できない。

二  ところで、本件のようなワラント取引に限らず、およそ証券取引は本来リスクを伴うものであり、証券会社が投資者に提供する情報、助言等も、市場に影響する要因である経済事情や政治状況等不確定な要因に対する見込みに依拠せざるを得ないものであるから、投資者自身において、右情報等を参考にし、自らの責任で、当該取引の危険性の有無、程度及びそれに対する自己の財産状況を判断して取引を行なうべきものである(自己責任の原則)。しかし、現実の証券市場においては、証券会社が証券市場に影響する経済、政治情勢や証券発行会社の業績、財務状況等に関し、高度の専門的知識、豊富な経験、情報等を保有し、多数の大衆投資者は証券取引の専門家としての証券会社の助言等を信頼して証券市場に参入せざるを得ないのであり、このような状況下においては、このような投資者の信頼が十分に保護されなければならない。

このようなところから、証券取引法その他の法令諸規則(証券業協会の規則なども含む)により、証券会社又はその役職員による断定的判断の提供、虚偽表示、誤導表示等が禁止され(証券取引法五四条一項一号、五号、健全性省令一条)、信用取引、ワラント取引等の受託についてそれぞれの取引開始基準を定めて当該基準に適合した顧客から信用取引、ワラント取引の受託を受けるものとして投資者の意向と実情に適合した投資勧誘を行なうべきものとし(適合性の原則)、或は、証券会社はワラント証券等にかかる契約を締結しようとするときは、当該顧客に対して所定の説明書を交付すると共に、ワラント証券等の取引の内容、ワラント取引等に伴う危険性等について十分に説明し、顧客の判断と責任において当該取引を行なうものであることの確認書を徴求すべきものとしているところである(大蔵省証券局長通達「投資者本位の営業姿勢の徹底について」〔昭和四九年一二月二日蔵証第二二一一号〕、同「株式店頭市場の適正な運営について」〔昭和五八年一一月一日蔵証第一四〇四号〕、証券業協会規則「店頭における株式の売買その他の取引に関する規則」〔公正慣習規則一号〕、同「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」〔公正慣習規則九号〕、同「外国証券の取引に関する規則」〔公正慣習規則四号〕等)。

これらの法令諸規則は公法上の取締規定又は営業準則としての性質を有するに過ぎないものであり、その違反行為が直ちに私法上も違法と解することはできないが、右に見たような証券取引の特質や特殊性に鑑みれば、証券会社又はその役職員は、投資者に対して、虚偽の情報又は断定的情報等を提供する等して投資者が当該取引に伴う危険性について正しい認識を形成することを妨げたり、また、投資者の投資目的、経験、財産状態等に照らして明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、社会的に相当性を欠く手段又は方法によって不当に当該取引への投資を勧誘することを回避すべき注意義務があるというべきであり、証券会社又はその役職員がこれに違反したときは、当該取引の一般的な危険性の程度及びその周知度、投資者の職業、年齢、財産状態、投資経験その他具体的事情の如何によっては私法上も違法性が認められ、不法行為責任が成立すると解される。

三  以上を前提に、被告Y1の本件ワラント取引の勧誘行為に違法があったか否か検討する。

1  適合性の原則違反について

前記認定事実によれば、原告は、本件ワラント取引当時、満五七歳で、独立して一〇年以上の経験を持つ古美術商であること、証券取引を一〇年以上経験して相応の利益をあげると共に少なからぬ損失も被ってきたこと、被告会社に対し、家族名義を合わせ約三〇〇〇万円相当の預け資産を有していたこと、本件ワラント取引の約二か月前からは和光証券との間で株式の信用取引を始めていたことが認められる。

確かに、前記認定事実によれば、被告Y1は、原告から和光証券との間で株式の信用取引をすることについて相談を受けた際、やらないように助言しており、原告の株式信用取引についての適格性には疑問を持っていたことが窺われるが、預託金額を超える損失を被ることがある信用取引はワラント取引と比べてリスクがかなり大きいといえ、信用取引の適格性とワラント取引の適格性とは同列に論じ得ず、また、原告は、自身も信用取引は危険だと認識しており、かつ、被告Y1の右助言を受けたにも拘らず、結局、四月一一日から和光証券との株式の信用取引を始め、本件ワラント取引を行なうまでの二か月弱の間に三〇〇〇万円を超える買付けをし、その後も、九月まで信用取引を継続していたのである。

このような原告の投資経験、投資内容、財産状態等を総合考慮すると、被告Y1において原告がワラント取引の適格性を有すると認めてワラント取引の勧誘をしたことをもって適合性の原則に違反しているとはいえない。

2  説明義務違反について

(一) 前記認定のとおり、ワラントは、一般投資者にとって理解するに容易でない複雑な要因により価格形成がなされ、権利行使期間経過によるワラントの無価値化等現物の株式取引と比較してハイリスクな金融商品であることから、証券会社は、ワラント取引の勧誘に当たっては、ワラントの特質、危険性を説明し、投資者の意思決定に重要な当該取引に伴う危険性について正当な認識を形成するに足りる情報を提供すべきものと解される。

(二) 前記認定事実によれば、被告Y1は原告に初めてワラント取引を勧誘した五月二〇日頃、ワラントが一定の期間、一定の価格で、一定の数量の新株を引受ける権利を有する証券であること、外貨建ワラントには為替リスクがあること、株に比べて非常に値段の動きが大きくなること、権利行使期限を経過すると価値がゼロになること等を説明し、その後も、その説明を直ちには理解できない様子であった原告に対して二回ほど同様の説明をし、更に原告が清水建設ワラントを購入した同月二九日にも原告の求めに応じてワラントの説明を三回した結果、原告は更なる質問をせずに清水建設ワラント購入を承諾したのであり、事前にワラントに関する説明書の交付はされていないが、前記認定の原告の投資経験に照らすと、原告に対する説明義務の履行としては右をもって十分であったと認められる。

原告は、ワラントの投下資本回収方法が店頭・相対取引によるしかないことについての説明の必要を主張しているが、店頭・相対取引は必ずしもワラント特有のことではないし、本券が外国保管といっても、前記認定事実によれば、口座移管も特に困難とは解されず、店頭・相対取引であることがワラントの本質的な危険性として投資者の意思決定に必須の説明事項とまではいえない。

原告は本人尋問(第一回)において、被告Y1から説明を聞いたが、結局、ワラントの仕組や危険性については全く分からなかった旨供述するが、前記認定の被告Y1の原告に対する説明内容、原告のこれまでの投資経験に照らして容易に信用できない。

3  断定的判断の提供について

原告は被告Y1が断定的判断の提供をして勧誘したと主張し、証拠(原告本人〔第一回〕)によれば、被告Y1は本件ワラント取引の勧誘に際し、「絶対儲かる。買わにゃ損だ。」等という言辞を使い、その有利性を強調していたことが認められるが、前記認定のとおり、被告Y1はワラントのリスクについても十分説明していたのであり、原告の投資経験、職業、年齢等に照らせば、原告がこのような絶対儲かるとの言葉を盲信するとは解されない(原告自身も、買いさえすれば儲かるということは普通あり得ないことであり、被告Y1の右言辞を聞いても、それで儲かると信じた訳ではない旨供述している。)から、これをもって社会的に相当性を欠くような断定的判断の提供があったとはいえない。

4  損失補償の約束について

原告はまた、被告Y1が損失が出たら責任を持つといったことが損失補償の約束であり、原告の本件ワラント購入決定の要因となっている旨主張し、本人尋問においてこれに沿う供述をする。しかしながら、前記認定した原告の証券取引の経験・知識に照らすと、仮に被告Y1が本件ワラント取引勧誘中に右のような発言をしたとしても、原告がそれをもって直ちに損失補償約束と理解するとは考えられず(前記認定によれば、原告が清水建設ワラントを購入した翌日、右ワラントが値下がりしていたことから、原告は被告Y1に右ワラントの売却の相談をしているが、原告において損失補償約束があったと理解していたならば、右ワラントが値下がりしていたからといってこのような行動には出ないはずである。)、右発言があったことから直ちに損失補償約束があったとする原告の主張は理由がない。

5  強引で執拗な勧誘について

原告は、被告Y1が連日数回架電して強引かつ執拗に勧誘した旨主張し、本人尋問においてこれを沿うかにような供述をするが、前記認定事実に照らして採用できず、他にこれを認定するに足りる証拠はない。

四  違法な仕切拒否について

原告は、被告Y1が、再三にわたって仕切を依頼する原告に対して虚偽の事実を告げてこれに応じなかった旨主張するが、原告の供述によるも、原告は清水建設ワラントを購入した日の翌日を初めとして以後再三にわたって、損をしてもよいから本件ワラントを売って欲しい旨被告Y1に依頼したが、同被告から「大丈夫。まだ上がります。」といわれ、これを信じたというのであって、被告Y1が原告の仕切依頼を拒否したことを認めるに足りる証拠はない。

五  誠実公正に業務を行なうべき注意義務違反について

原告は、被告Y1が原告に告げた相場観が当時の状況に照らして楽観的に過ぎ、また、本件ワラント価格が持ち直した一〇月ころに、原告が読み方も理解できないような資料を送付するだけで注意を喚起しようとせず、損害の拡大を放置したことをもって、右注意義務違反である旨主張する。

しかしながら、元々相場観は不確定な要素を前提としたものであって、投資者はそのことを踏まえた上で自己の責任において判断することが予定されており、およそ根拠もない出鱈目を殊更に信用できる情報として伝えたなどの特段の事情がない限り、証券会社の従業員の相場観が結局当たらなかったことをもって当然に違法ということはできず、本件において右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

また、前記認定事実によれば、被告Y1は、八月ころから原告にワラント価格表を送付すると共に電話をするなどしてワラントの値段について毎日のように連絡をとっており、本件ワラント価格が持ち直した一〇月ころには、積極的に売却を勧めてはいないにせよ、本件ワラントを売却するかどうか原告の意向を尋ねているのであり、原告主張のように、原告の損害の拡大を放置したとはいえない。

六  結論

以上のとおりであり、被告Y1の本件ワラント取引勧誘行為、その後の同被告の原告に対する対応に違法があったとは認められないから、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 辻川昭 裁判官 飯田恭示 裁判官 甲斐野正行)

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